イタリア製のレース用オートバイの日本総輸入元であるうえさか貿易の事業を引き継ぎ、ERP事業へとピボットした株式会社リチェルカは、生成AIを組み込んだ次世代のサプライチェーンマネジメントシステムを開発しています。代表取締役CEOの梅田祥太朗さんに、事業の詳細と今後の展開について伺いました。
人生の集大成としてERPに挑戦
社名のリチェルカ(RECERQA)は、イタリア語で「探求」を意味する「Ricerca」に由来します。末尾の「ca」をQ&Aの「QA」に置き換え、さらに「Q」にインフィニティ(無限)マークを加えることで、絶えず問い続け、探求し続けるチーム」という思いを込めました。
AI-OCR「RECERQA Scan」を開発したきっかけは、うえさか貿易で海外からの納品物の内容確認を効率化するために、他社製品のAI-OCR導入を検討したことでした。いくつかの製品を試しましたが、非定型帳票の処理では十分に活用できないという問題に直面しました。商社では取引先ごとに独自のフォーマットを使うため、帳票の定型化が難しく、DX化が遅れていたのです。その課題に挑むことが必要だと梅田さんは考えました。
梅田さんは、これまでERPベンダーとして積み重ねてきたキャリアやさまざまな会社での経験、生成AIの時代の到来、さらに貿易商社での苦しい実務経験をすべて掛け合わせ、人生の集大成としてERPに挑戦するべきだと判断しました。実際に、NFT事業からERP事業へのピボットは2023年1月に行われました。
肥大化したERPを荷下ろしして整理し、自動化ソリューションで効率化
同社のAI-OCRは生成AIネイティブで非定型帳票に特化して開発され、大手製品と比較して約25%高い読み取り精度を実現しています。フォーマットごとの設定など面倒な作業は不要で、表記揺れの自動置換やマスター情報への変換など、従来手作業で行っていた処理も生成AIが自動で実行し、基幹システムと連携します。このためOCRの精度の高さだけでなく、チェック業務を含む全体の業務改善が可能となり、現場の負担を大幅に軽減できます。
ERPはこの10年、20年で機能が増えすぎ、複雑化してきたといわれます。同社は大手企業を中心に、肥大化したERPを「Clean Core戦略」に基づき分解・棚卸しを行い、部分的にAIネイティブなRECERQAシリーズへの移行を実現する事業を展開しています。
梅田さんは、OCRはあくまで業務を行うための手段に過ぎないと考えています。お客様がそのデータを基礎として業務を確定させたいのか、分析に活用したいのかを丁寧にヒアリングし、データの先にある価値をともに創出することを重視して事業に取り組んでいます。
生成AIで業務全体の効率化と営業クオリティの向上
リチェルカが展開するRECERQAシリーズの次世代AI-OCR「RECERQA Scan」は、どのような形の帳票でも正確にデータ化できることが特徴です。このデータを「RECERQA Hub」に蓄積し、生成AIに適した形式に整えて分析や活用を行い、「RECERQA SCM」上のAIエージェントにより在庫・仕入・販売業務の自動化を実現しています。
システム構造としては、既存の基幹システムはそのまま動かしつつ、商品情報や取引先情報などを外付けのRECERQA Hubに集約し、Hubが親マスターとして社内の各システムに連携してくれる、というものです。さらに、AIエージェントが一部業務の自動化や、最適な提案を提示してくれます。
今後は売り上げ履歴を活用して顧客への提案精度を高め、営業のクオリティを底上げする仕組みも整えていく予定です。これにより、これまで属人化しがちだった営業ノウハウや見積もり作成なども自動化が可能となります。ERPとしての活用だけでなく、営業への付加価値としても引き合いがあります。
顧客との関係から学び、共に成長する企業を目指して
リチェルカでは、新入社員はまずうえさか貿易で実務を体験し、顧客が日常業務で直面する課題を理解する機会を持っています。この経験を通じて、顧客から「リチェルカは自分たちのことをよく理解してくれる」と評価されることもあり、うえさか貿易での実務が事業に反映される重要な要素となっています。
AIの導入によって多くの仕事が自動化され、雇用が減ることで経済格差が広がる懸念もあります。富が一部の層に集中する可能性が高まっているかもしれません。こうした状況を踏まえ、将来の展望は予測できないからこそ、梅田さんは「リチェルカという会社・プロジェクト・プロダクトを通じて、ステークホルダーと共に人間にしか出来ない仕事が得意である”クリエイティブワーカー”へと成長していきたい」と語ります。
同社の顧客第1号の担当者はAIを初めて活用する女性でした。その女性はRECERQAの導入により、従来の業務を効率化できるだけでなく、クリエイティブな発想が広がり、まるで子育てをしているような感覚で楽しいと感じたと話しています。この体験を通じて、梅田さんは「このために仕事をしてきたのだ」と実感し、顧客との縁を大切にする決意を新たにしました。
梅田さんは、自社も顧客から学び成長していることを踏まえ、顧客と共に成長し続ける姿勢を重視しています。リチェルカは、加速度的に変化する社会の中で、AIと共存する人々の幸せな未来を目指し、Q&Aを繰り返しながら探求を続けています。


