グローバル化や需要の多様化、DXの進展により、サプライチェーン業務はかつてないほど複雑化しています。さらに、深刻な人手不足によって業務の効率化も急務となっています。こうした課題を解決するため、株式会社リチェルカは生成AIを活用した次世代のサプライチェーンマネジメントシステムを開発しています。代表取締役CEOの梅田祥太朗さんに、起業に至るまでの経緯を伺いました。
学生時代に経済に興味を持ち金融業界へ
学生時代の梅田さんは、自らを「失敗するのがとても嫌で、できるだけ楽をしたいタイプだった」と振り返ります。高校受験では模擬試験の判定をもとに合格圏内の学校を選び、大学への内部進学を見据えて私立大学の付属校に進学しました。高校時代は勉強にあまり関心が持てず、成績も振るわなかったといいます。
高校3年生のときに受けた政治経済の授業が、大きな転機となりました。教科書を使わず、現代の政治や経済の仕組みをドラマチックに紐解く授業は非常に印象的で、初めて学ぶことの面白さを実感したといいます。この授業をきっかけに政治や経済への関心が高まり、勉強への取り組み方も変化していきました。その後も経済分野への興味を広げながら大学生活を送り、就職活動では金融業界に絞って企業を選び、みずほ銀行に入社し、2年間法人営業を担当しました。
IT業界へ転職、多彩なキャリアを経験して起業を意識
みずほ銀行で金融の現場に携わった梅田さんは、その後、IT業界へ活躍の場を移し、ワークスアプリケーションズに転職しました。国産ERP「COMPANY」「HUE」の会計・SCM領域の営業に約4年間携わり、幅広い業界の企業課題と向き合う中で、ITを活用した業務改革の可能性を実感するようになりました。
その後、AI insideに入社し、執行役員CROとしてIPOを経験しました。この時期、組織の中で意思決定の難しさに直面したことが、梅田さんが起業を意識するきっかけとなりました。IPO後の会社経営は想像以上に複雑で、論理的な議論だけでは収まらず、主義や思想といった価値観の衝突の中で舵取りを行う場面も少なくありませんでした。CxOとして最も重要なのは、CEOを信じてその判断に従うことだと理解しながらも、自分にはそれが向いていないと感じたといいます。派閥をつくるような組織運営を避け、一丸となった経営を目指すためには、自分がその場にとどまるべきではないと考えるようになりました。
また、他社から転職の誘いを受ける際に「CEOと合わなかった」と説明することに違和感を覚えたことも、独立を決意する後押しとなりました。そうした言葉を口にするたびに、自責の観点から「自らの信じる方向へ責任を持って舵を取るべきだ」と感じ、起業への思いが一層強まっていきました。
独立を決意したものの、事業アイデアが定まらず模索していた時期に、HashPort代表取締役CEOの吉田世博さんと出会いました。当時、一緒に起業を検討していた仲間とともにHashPortに参画し、取締役COOとしてブロックチェーンやNFT事業のBtoBビジネス立ち上げ、IPO準備、組織拡大に尽力しました。
そして、HashPortが新たな方向に舵を切るタイミングで、再び独立を決意しました。2022年4月にiMAMIRAi株式会社を創業し、「未来の技術を今にブリッジさせる。今と未来をつなぐ会社でありたい」という思いを社名に込めました。NFTとIoTを組み合わせたガジェットの製作を手掛けました。
輸入商社の経験から得た苦労がピボットのきっかけに
梅田さんは独立と同じ時期に、バイク輸入業を営む会社の経営を引き継ぎ、代表取締役社長に就任しました。バイクレースに参戦し始めていた梅田さんは、自身が乗るイタリア製のレース用オートバイ「TM Moto」の日本総輸入元であるうえさか貿易が、事業の譲渡先を探しているにもかかわらず、買い手が見つからない状況にあることを知りました。梅田さんは「こんな素晴らしいバイクの輸入元であれば、自分が経営を引き受けたい」と考え、事業を継承することを決意しました。
TM Motoは世界選手権で何度も優勝を重ねるトップクラスのブランドであり、自分たちの手でそうした高品質な製品を扱えることに大きな魅力を感じたといいます。梅田さんは「非常に小さいが、メルセデス・ベンツ日本のような会社を引き継げることは今後二度とない」との思いを抱き、さらに上坂夫妻が築き上げてきたブランドを絶やさず、多くの人に届けたいと考えました。
これまでのキャリアを活かせば、イタリアから仕入れて国内で販売する事業は難しくないだろうと見込んでいましたが、実際には想像を超える苦労が待っていました。アナログで手作業の多い業務に追われ、IT関連の仕事に充てる時間がなくなり、膨大な数のパーツと向き合う日々が続いたと語っています。そうした経験から、「このままではいけない。業務をDX化し、システムを導入しよう」と考えるようになりました。
梅田さんはERPベンダーでの業務経験を通じて業界の課題を理解していましたが、輸入業を実際に経験することで、顧客が本当に困っている点を肌で感じるようになりました。この実体験が次世代サプライチェーンマネジメントシステム「RECERQA(リチェルカ)」の開発につながり、ERP事業へのピボットを決断しました。そして2023年、会社名をリチェルカへと変更し、新たなスタートを切りました。
(後編につづく)
				
				

