ゴミ処理には、運搬コストの増加や焼却炉の老朽化など、さまざまな課題が存在します。こうした問題の解決に挑む株式会社JOYCLEは、ゴミを現地で処理・再資源化できる小型アップサイクルプラント「JOYCLE BOX(ジョイクルボックス)」を開発しました。今回は、代表取締役社長 CEO の小柳裕太郎さんに、起業の背景と取り組みの目的について伺いました。
環境分野でのグローバルビジネスに着目
小柳さんは、大学3年生の就職活動を通じてさまざまな企業を知る中で、ビジネスの世界に関心を持つようになりました。最終的にグローバルな活躍ができる総合商社に入社し、パプアニューギニアへの赴任をはじめ、化学品やレアメタルの輸入業務に従事しました。
商社での経験を重ねる中で、「このまま起業の夢を諦めてしまうのでは」との危機感が募っていきました。そこで小柳さんは、経営のスキルや営業力の研鑽を目指し、人材系ベンチャーへ転職し、人材オープンイノベーションを活用したサービスを展開します。
さらに、より広い視野で社会にインパクトを与えたいという思いから、株式会社電通で新規事業開発に従事するようになります。そこでの経験を通じて、環境分野におけるグローバルビジネスの将来性を強く実感し、起業を視野に入れて、2020年5月、U3イノベーションズ合同会社に参画しました。
鹿児島県大崎町との出会いが転機に
2021年9月、CIC TokyoとU3イノベーションズは、スタートアップを中心とした環境エネルギーイノベーションのコミュニティを立ち上げました。その際に、小柳さんはゴミのリサイクル率全国1位を誇る鹿児島県大崎町の存在を知ることになります。
焼却施設を持たない大崎町では、ゴミの最終処分場がいずれ満杯になることを見越して、1998年から、徹底した分別収集やリサイクルでゴミの量を減らす取り組みを始めました。ゴミを28品目に分別し、リサイクル率は全国平均20パーセントに対して、80パーセント以上の水準を実現しています。これまでに12年連続を含む15回にわたり、リサイクル率全国1位を獲得しています。
焼却炉を持たず、ゴミの量を大幅に減らして埋め立て処分場の寿命を延ばした大崎町の取り組みは、自治体と住民が協力して持続可能な社会を目指す優れた事例です。ただ、小柳さんは、こうした取り組みがすべての自治体で再現できるとは限らないと課題も感じました。
ゴミを運ばず、燃やさず、資源化へ
人口減少に伴う税収の減少により、焼却炉の建て替えが困難な自治体が数多くあることに、小柳さんは着目しました。今後、焼却炉を持たない自治体がさらに増えていけば、ゴミを遠方の焼却施設まで運ばざるを得なくなります。そうなると、ドライバー不足や燃料費の高騰といった新たな課題も影響してきます。
そのような課題の根本的な解決策として、「ゴミを運ばず、排出された場所で資源化できる装置が必要だ」と考えるようになりました。さまざまな技術をリサーチする中で、小柳さんは「運ばず、燃やさずに、現地で資源化できるインフラ」を構築するビジネスが必要だという結論に至ったのです。
加えて、日本は焼却炉の設置数が世界最多とされており、設置や維持には莫大なコストがかかります。今後さらに地方での少子高齢化や過疎化が進む中、焼却炉に依存しない新たな処理の仕組みが求められています。
循環型社会と持続可能なインフラの構築を目指して
小柳さんは「死後100年後の社会を変えるビジネスを創る」という想いで2023年3月に株式会社JOYCLEを設立しました。「資源と喜び(JOY)が循環(CYCLE)する社会を創造する」というミッションを掲げ、小型アップサイクルプラント「JOYCLE BOX」の開発に着手しました。ゴミを排出元で処理し、バイオ炭やセラミック灰などの資源に変換するという新しいアプローチで、ゴミ処理に革新をもたらしています。
お客様に商品を届けるのが「動脈」だとすれば、JOYCLEが担うのは、その後の廃棄物処理を担う「静脈」のサプライチェーンです。社会的なニーズは非常に高く、喫緊の課題である一方で、ニーズと供給側のプレイヤー数がまだ釣り合っていないのが現状です。ハードとソフトの両面から包括的に取り組んでいるスタートアップは極めて少なく、だからこそ挑戦する意義が大きいと小柳さんは捉えています。