AI監査ツール「ジーニアルAI」は、単純で面倒な会計監査の手続きをITで自動化し、会計士がより専門性の高い業務や監査リスクの高い領域に集中できる環境を提供するサービスとして注目されています。開発元である株式会社ジーニアルテクノロジーの代表取締役 阿部川明優さんに、製品の特長と今後の展望についてお話を伺いました。
生成AIとビッグデータを活用し業務を効率化
上場企業においてコンプライアンス遵守や情報開示の透明性がより強く求められる中、監査業務の負担は増加しており、監査の効率化が世界的な課題となっています。ジーニアルテクノロジーは、「AIでもっと役立つ監査を」というミッションを掲げ、監査現場の負担をAIの力で軽減し、会計士がより高度な業務に集中できる環境作りを目指しています。
「ジーニアルAI」は、注文書・納品書・請求書など、さまざまな証憑書類をAI-OCRで読み取り、対応するExcelデータと自動で照合します。一致する箇所をハイライト表示することで、確認作業を効率化するExcelアドインです。また、読み取った書類データを自動的にExcelシートへ転記する機能も備え、入力作業の大幅な省力化も実現します。
クラウドベースの設計により、「ジーニアルAI」は複数ユーザーや拠点での柔軟な運用が可能で、外部ツールとの連携や将来的な機能拡張にも対応しやすい構造となっています。その結果、大量のデータもスムーズに処理できるため、業務の拡大にも柔軟に対応できます。
さらに、この基盤を活かすことで、生成AIの活用も容易になりました。AI-OCRによる書類認識や、取引データと証憑の関連付けといったプロセスが業務フローに自然に組み込まれ、監査の自動化と品質向上に大きく貢献しています。
最終責任は監査法人側にあるため、「ジーニアルAI」はあくまでも監査を支援するアシストツールとして機能します。たとえば、会計や監査の基礎知識を持つスタッフがクラウド上で単純作業を担当し、その成果物を有資格者がレビューする、といった運用も可能です。

競合製品との差別化を図る
この分野におけるグローバルな競合製品としては、オランダ企業が開発したツールが知られており、世界で50万人以上のユーザーを抱えています。ただし、そのツールはクラウド未対応でAI機能も搭載されておらず、パソコン本体のCPUやメモリに負荷がかかるなど、いくつかの課題があります。
一方で、「ジーニアルAI」はクラウドに対応し、生成AIを活用することで、大量のデータを短時間で処理できる点が強みです。証憑突合の精度が高く、書類の事前加工を必要とせず、さまざまなフォーマットに対応する柔軟性も備えています。紙やPDFでしか受け取れない資料も瞬時にExcel形式に変換できるため、業務効率を大幅に向上させます。
また、監査ツールの開発には、顧客の機密情報を扱うため、高度な情報セキュリティ対策が必須です。情報セキュリティマネジメントの国際標準である「ISO 27001」や、顧客データの取り扱いに関する信頼性を示す「SOC2レポート」など、厳格な基準の取得が求められ、新規参入が難しい分野でもあります。
グローバル展開を視野に
会計監査とIT技術の両面に精通する阿部川さんは、業界内で高い信頼を得ており、多くの実績を積んでいます。また、中小規模の監査法人への営業活動も積極的に行っており、準大手4法人のうち2法人では導入していて、さらにもう1法人ではPoC(概念実証)が進行中で、近く本導入が予定されています。
「ジーニアルAI」は、従来の監査ツールにはない新しいアプローチを提供しており、世界中で注目を集めています。現在は日本語・英語を含む17言語に対応しており、次に狙う市場としてヨーロッパが視野に入っています。阿部川さんは、「世界全体の監査報酬の3〜4割はアメリカ、次いでEU圏が約2割を占めており、これらの市場は大きな可能性を秘めています」と語り、さらなるグローバル展開への意欲を示しています。
会計士がAIで代替できない業務に注力
監査AIツールの導入により、会計士は監査戦略の立案や、特定の事業部門への深掘り調査、不正の兆候を見抜くような経験や勘に基づく判断といった、AIでは代替困難な業務に集中できるようになります。
また、企業担当者との対話や信頼関係の構築など、対人コミュニケーションも監査において欠かせない要素です。AIによって定型業務を効率化することで、こうした人間的な業務により多くの時間を割ける環境が整います。
将来的には、リアルタイムで会計システムから取引データを取得し、証憑と自動突合、さらに会計基準への適合性まで確認できる監査AIの実現も視野に入っています。「ジーニアルAI」はすでにそうした高度な機能の一部を実装しており、高い評価を得ています。
阿部川さんは、「ジーニアルAI」を世界標準の監査ツールに育てていきたいと考えています。監査には国際監査基準が定められており、基本的には世界中で同様の手続きが行われています。そうした背景のもと、日本発の監査AIツールが、世界中の監査法人や会計事務所で採用される未来を目指し、ジーニアルテクノロジーは挑戦を続けています。