スカイゲートテクノロジズ株式会社は、防衛領域における政府向けサービスや、企業向けのゼロトラストセキュリティ製品を提供する“防衛テック”スタートアップです。元自衛官という経歴を持つ代表取締役社長の粟津昂規さんに、防衛テックとは何か、グローバル視点で見た日本が直面する課題、スカイゲートテクノロジズが描く未来の展望について伺いました。
日本でも根付き始めた「防衛テック」とは
防衛テック(ディフェンステック)とは、クラウドやAIといったデジタルテクノロジーを活用し、防衛上の課題を解決する技術や企業を指します。従来の軍需産業との大きな違いは、軍事専用ではなく民間領域にも応用できる点にあります。例えば、ドローン検知システムは軍事基地の防衛だけでなく、空港や重要インフラの警備にも活用可能です。防衛分野で培われた技術は、極限環境での運用を前提に開発されるため、品質が高く、社会全体の安全性や堅牢性の向上にも大きく貢献します。
世界に目を向けると、米PalantirやAndurilといった防衛テック企業が成長を遂げており、また、仏タレス社や米クラトスディフェンス社なども民生と防衛の双方に活用する「デュアルユース」の動きが拡大しています。一方、日本では市場がまだ確立しておらず、スカイゲートテクノロジズのような存在は極めて希少です。参入企業が限られている理由について、粟津さんは次のように分析しています。日本では自衛隊や軍事に対して国民の関心や距離感が一定程度あること、欧米諸国に比べてサイバー攻撃など新しい脅威への認識や投資意欲が十分でないこと、そしてESG投資の方針で兵器製造企業が投資対象から外されやすく、投資家からの支援を受けにくいことが影響している、と指摘しています。
さらにもう一つの要因として、専門性の高さがあります。高度な防衛概念を理解し、それを技術として実装するには、防衛やセキュリティに関する独自のドメイン知識が不可欠です。しかし、防衛、宇宙、サイバーセキュリティの分野に精通する人材は限られており、確保は容易ではありません。社内で育成する場合も、専門知識の習得には長い時間と大きなコストが必要となり、企業にとって大きな負担になります。
このような状況下で、自衛隊での実務経験を持つ粟津さんをはじめ、自衛隊出身のエンジニアや宇宙・サイバーセキュリティに精通した人材が在籍していることは、スカイゲートテクノロジズの強みであり、競争優位性につながっています。
企業のセキュリティから防衛・宇宙まで
スカイゲートが政府機関向けに開発を進めている主力製品「Skygate JADC2 Alayasiki」は、全領域統合指揮統制(JADC2:Joint All-Domain Command and Control)の実現を目指すソフトウェアです。従来は陸・海・空と領域ごとに分かれていた防衛を、宇宙空間、サイバー空間、電磁波空間、さらにはSNSなどの認知空間を含む全領域で統合し、迅速な意思決定を支援することを目的としています。完成すれば、複雑化する現代の安全保障環境に対応するためのデータ分析・可視化機能を提供できるようになる見込みです。
また、民間企業向け主力製品である「Skygate Cygiene」は、AIベースのゼロトラストセキュリティモデルに基づき、企業の社内システムやネットワークを未知の脅威から保護するセキュリティソリューションです。これにより、企業は情報資産を安全に保護できます。
両製品は、不確定なデータから未知の脅威を見つけ出すという共通の強みを持っています。開発は、社内の専門チームによって一体的に進められており、セキュリティと防衛分野の高度な技術が融合されています。
政府の意思決定に活かされる製品を目指して
東日本大震災の被災地で、粟津さんは「なぜ自衛隊は電気や水道がない状況下で役に立てたのか」という疑問を抱きました。その答えの一つは、正確な情報分析と可視化にあると考えており、これは現在の事業とも深くつながっています。
スカイゲートテクノロジズは、今後10年を見据えた長期的な目標として、政府の意思決定に自社製品を役立てることを掲げています。例えば、首相官邸の危機管理センターで自社の製品がモニターに表示され、その分析結果をもとに重要な判断が行われる。粟津さんが描く未来の一つは、そうした姿です。
その未来を実現するため、短期的にはまず防衛省が抱える課題を解決できるソリューションを提供し、確実な成果を上げることをマイルストーンに据えています。さらに20年先のビジョンとしては、日本から平和を支える技術やソリューションが次々と生まれ、国際的な信頼を得ることで、より安全で強靭な社会の構築に貢献したいと語りました。