自炊する時間がなかったり、アレルギーや病気によって食事に制限があったり、美容や健康のために特定の栄養素を摂取したいなど、「食べる」ことにはさまざまな制約が伴います。食事に対するニーズがますます多様化する中、株式会社DELIPICKS(デリピックス)は、フレンチシェフが監修する冷凍グルメのECサービスを提供しています。今回は、同社代表取締役CEOの諸石悠実さんに、起業に至るまでの経緯を伺いました。

留学をきっかけに「自分一人の人生ではない」と自覚

6人家族の末っ子として、経済的に厳しい家庭で育った諸石さんは、幼い頃から「現状から抜け出したい」という強い思いを抱いていました。中学1年生のときには、「将来は海外で勝負する人になる」と心に決めます。母親の支えを受けながら、自らもアルバイトを重ねて留学資金を少しずつ準備し、大学でのアメリカ留学を実現しました。

留学できたことに対して感謝と責任を感じた諸石さんは、「自分一人の人生ではない」と意識するようになります。それは、親への感謝と、自分を受け入れてくれた社会への感謝の気持ちからでした。この経験を通じて、人生を後悔しないためにも、社会にプラスになる活動をしたいと考えるようになりました。

大学卒業後に日本へ帰国し、社会課題をビジネスで解決することを志しました。インパクトのある事業に取り組むには、「ヒト・モノ・カネが潤沢で、新規事業に貪欲な会社」で経験を積むことが近道だと考え、リクルートへの入社を決めました。不動産領域の新規事業開発室に配属され、そこでキャリアを重ねていきました。

5つの新規事業を立ちあげるなど、仕事は充実していましたが、やがて自身が気づいていなかった「こだわり」が浮かび上がってきます。周囲の同僚たちが忙しさのあまりコンビニのお弁当で食事を済ませる様子を見て、「一生懸命働いている人の食生活がこれで本当にいいのだろうか?」という疑問を抱くようになりました。

貯金から従業員に給料を支払って起業

大学時代に勉強で忙しいテスト期間中は、必要な栄養素だけ摂れればいいと考え、牛乳に砂糖を入れて片栗粉で固めたものだけを食べていたことがありました。ところが、1週間も経つと、肌荒れや高熱に見舞われ、体調を崩してしまいました。この経験から食事の大切さを痛感し、野菜中心でタンパク質をしっかり摂れる食生活に切り替えたところ、肌にハリやつやが戻り、筋トレにも効果を実感できました。食生活を整えることで健康的になり、自信がつき、日々の生活が楽しくなったといいます。

そうした体験や、幼少期に空腹を抱えて過ごした記憶、日頃から栄養について学び実践していたことなどもあり、諸石さんにとって「食」は最も熱中できるテーマであることをあらためて認識したのです。

2018年11月に起業し、2019年4月にはオフィス向けの弁当配達事業をスタートさせました。実は会社を退職してから事業を始めるまでの間に、いわば「充電期間」があったそうです。リクルートでやり切ったという思いが強く、無気力な状態になっていたものの、自分にやる気を出させるためにエンジニアとデザイナーを雇い、自らの貯金から給料を支払って事業をスタートさせました。このように、自分自身を客観的に見つめ、意志を持って行動に移せる姿からは、経営者としての素質がうかがえます。

コロナ禍をきっかけに冷凍食品のECプラットフォーム構築へ

オフィス街で会社員が昼食を確保できない「ランチ難民」が話題になっていた当時、法人向けのUber EatsのようなDELIPICKSのサービスは人気を集めていました。飲食店のアイドルタイムを活用して、おいしくて健康的な弁当を製造し、アプリを通じて注文を受け、独自のルート配送で届ける仕組みです。企業の福利厚生としても注目され、配送の2時間前まで注文できる利便性も高く評価されていました。

独自に開発したルート配送アルゴリズムを用いて需要を予測し、配達の効率化を図っていましたが、それでも一定のフードロスは避けられませんでした。そんな中、新型コロナウイルスの流行により、オフィス街から人々が姿を消します。出社する人が減ったことで、売り上げは一気に落ち込みました。

諸石さんの頭に浮かんだのは、「忙しい人においしくて健康的な食事を届けたい」という想いと、「必要とする人が、欲しい商品にアクセスできない」という課題でした。そこで、より多様なニーズに応える冷凍食品のECプラットフォームの構築を決意し、DELIPICKSにしか提供できない高品質な冷凍弁当を展開する事業へとピボットを試みます。ちょうどコロナ禍によるステイホームや在宅勤務の拡大に伴い、冷凍食品市場が成長していたタイミングでもありました。

(後編につづく)

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