監査法人における証憑書類の確認作業を効率化し、公認会計士がより専門性の高い業務に専念できるよう開発されたのが、AI監査ツール「ジーニアルAI」です。このサービスを提供する株式会社ジーニアルテクノロジーの代表取締役 阿部川明優さんに、起業までの経緯と開発に込めた想いを伺いました。

学生時代からMBAの取得と起業を目標に

料亭を経営する両親のもとで育った阿部川さんは、幼い頃から経営者という選択肢を意識していたといいます。小学生の頃からパソコンに親しみ、中学生になるとパソコンの分解や修理まで行っていました。エンジニアへの憧れを抱く一方で、家業を継ぐか、またはまったく異なる分野での起業も視野に入れていました。

インターネット関連企業が急成長していた時期に高校生となり、楽天の三木谷社長がハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得後に起業したことを知りました。それをきっかけに、「自分もMBAを取得して起業したい」という思いが芽生えました。

MBAを取得するには、通常2年以上の社会人経験が求められます。また、起業には会計の知識が不可欠だと考え、大学在学中に公認会計士の資格を取得しました。そして在学中からPwCあらた有限責任監査法人に入所し、会計士としてのキャリアをスタートさせました。

MBA留学と会計士の経験が起業につながる

大学卒業後も会計士として勤務を続け、通算7年半の経験を積んだ後、阿部川さんはAI研究で知られるアメリカのカーネギーメロン大学のMBAプログラムに留学しました。最初の1年半はピッツバーグ本校で学び、「クラウドコンピューティングの授業では、AWS上に最も速く、正確に答えを返すサーバー構築をテーマにしたプロジェクトに挑戦し、チームで好成績を収めました」と振り返ります。これが本格的にコーディングに取り組んだ初めての経験でした。

残り半年はシリコンバレーに拠点を移して研究に取り組み、その頃すでに「ジーニアルAI」のビジネスプランを構想していたといいます。データクレンジングの効率化ツールを開発し、現地のエンジェル投資家に向けてピッチを行う機会も得て、大きな学びとなりました。

ピッチでのフィードバックを受け、試行錯誤を重ねる中で、新たな方向性が見えてきました。当初は、会計監査に必要なデータを整えるための「会計データクレンジング」をAIで自動化するというアイデアが出発点でした。具体的には、膨大な取引データの中から必要な情報を抽出・整理し、会計処理の判定に適した形に変換するプロセスです。

これを投資家にピッチしたところ対象となる市場規模が小さいという指摘がありました。そこで、データクレンジングにとどまらず、より広範な監査業務全体にAIの力を応用することで、より大きな市場に貢献できると考えたのです。こうして、事業の軸足を「AI監査」へとシフトすることを決断しました。

市場規模の大きいアメリカで起業

阿部川さんは留学中の2017年3月、カリフォルニア州クパチーノにて「Genial Technology, Inc.」を設立します。アメリカの監査市場は日本の15〜20倍の規模があり、当初は現地を拠点にサービス展開を目指していました。

大企業の内部監査部門へのインタビューを重ねながら、内部監査向けのプロトタイプ開発を進めました。しかし、不正検出のためには想定以上に多様なパターンへの対応が必要で、プロダクトリリースにはさらなる開発が求められることが判明します。

そこで、阿部川さんは自らPythonベースのプログラムを解析・再構築。さらに、PwCあらた有限責任監査法人のAI監査研究所との共同研究も開始し、内部監査向けから監査法人向けへの開発に方向転換しました。

この背景には、阿部川さん自身の監査実務での実体験があります。会計監査の現場では、紙ベースの資料に基づく手作業が今なお多く、特に納品書や請求書などの証憑突合は膨大な工数を要します。こうした単純作業をITで自動化できれば、会計士はリスクの高い領域や、判断・戦略が求められる本来の業務に集中できます。その確信が、開発の方向を明確にしたのです。

その後、阿部川さんは、アメリカでの事業展開を進める中で、監査市場の競争や製品の開発における課題に直面しました。しかし、そんな中で新型コロナウイルスの影響によりリモートワークが急速に普及し、ピッチイベントもオンライン中心となったため、拠点をアメリカに置き続ける必要が薄れたと感じます。「アメリカにいなくても事業は継続できる」と判断した阿部川さんは、日本に拠点を移す決断を下しました。

(後編につづく)

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