多くの企業はダイバーシティ推進や女性活躍、人的資本開示に取り組んでいるものの、実際には女性エンジニアの採用に結びついていないという課題を抱えています。女性エンジニア向け人材プラットフォーム「WAKE Career」を運営するbgrass株式会社は、この問題に正面から取り組むことで注目を集めています。代表取締役CEO兼CTOの咸多栄さんに、サービスの詳細や今後の展開について伺いました。
グローバルスタンダードのジェンダースコアをベースにした診断
現在、「WAKE Career」には1700人以上の女性エンジニアが登録しており、1年前と比べて約5倍に達しています。掲載企業は約40社で、「WAKE Career」独自のダイバーシティ診断を受け、一定のスコアをクリアした企業のみが参加しています。
「WAKE Career」の特長は、AIを活用したダイバーシティ診断です。企業の診断結果をAIが分析・ビジュアル化し、必要に応じてネクストアクションの提案も行います。一方、女性エンジニア側には、先入観や思い込みなどを取り除くサポートを提供し、自信をもって転職活動に臨めるようにしています。これにより、年収アップや選考通過率の向上につながっています。
ダイバーシティ診断は、2010年に国連グローバル・コンパクトとUN Womenが策定した「女性のエンパワーメント原則(WEPs)」に基づいたグローバルスタンダードのジェンダースコアを採用しています。これにより、自社の課題や立ち位置が明確になると好評です。
バイアスや格差を可視化し突破口に
日本における女性管理職の割合は約10パーセントと、国際的に見ても低水準です。一方、アメリカでは女性管理職の割合が30〜40パーセントに達しており、OECD加盟国の中でも高い水準にありますが、ジェンダーに関するバックラッシュも起きています。さらに、日本ではDEIにコストをかける企業はまだ少数である一方、海外ではDEIへの予算確保が一般的になりつつあります。
女性管理職が増えない理由について、企業側でデータ分析や原因の可視化が進んでいないことが一因です。「女性たちが管理職になりたがらない」という認識が根強いケースでも、データ分析を行うと、評価側が無意識に女性を不利に扱っている実態が浮かび上がることがあります。バイアスや格差を可視化することが、解決への突破口になるのです。
咸さんは、日本はアメリカに比べてジェンダー平等の取り組みが大きく遅れていると指摘しています。しかし、国が人的資本開示の範囲を広げようとしていることや、DEIを推進しない企業が女性やZ世代に選ばれにくくなるという認識が、スタートアップや若い企業の間で広がりつつあるのは追い風といえるでしょう。
エージェントではなくコーチング
「WAKE Career」の利用者は、他のエージェントやプラットフォームとは異なり、バイアスを考慮したアドバイスが受けられる点を高く評価しています。そのため、「WAKE Career」はエージェントというよりもコーチングに近いという声も多く寄せられ、利用者の95パーセント以上がサービスに満足しているといいます。
咸さんは、「WAKE Careerを通じて、希望年収を超えた転職成功例をさらに増やしていきたい」と意気込みを語ります。同社が運営するコミュニティーでは、イベントを通じて企業の採用担当者の目に留まり、そのまま選考に進んで内定を得るケースが増加しています。テクノロジーを駆使してジェンダーギャップの解消を目指す一方で、顔の見えるコミュニティーを大切にしている点が人気の理由です。女性エンジニアの採用が活発になる中、コミュニティーとデータベースの両方を備えた同社は一層注目を集めています。
SIerで働く女性エンジニアのエンパワーメント
次のステップとして、SIerで働く女性エンジニアのエンパワーメントに注力しようとしています。SIer業界では女性の比率が30~40パーセントと高いものの、管理職はほとんどいません。PMやPMOを担当する女性は多い一方で、リーダー職には上がれないのが現状です。
これには構造的な問題もありますが、女性エンジニアがリスキリングを行い、AIの活用やコーディングスキルを身につけることで、より強力なIT人材としてキャリアアップできる可能性があります。
今後の展開として、直近では、ユーザー数1万5千人、登録企業数100社を目標にしています。また、中長期的なビジョンとしては、日本にいるすべての女性をリスキリングによって優秀なIT人材に育成することや、公平な採用や評価を支援するモニタリングツールの開発も視野に入れています。
自分たちが成長してガラスの天井を壊していく
bgrassという社名には、「b」はbreakやbust、burnといった「壊す」という意味があり、「grass」はガラスを意味するglassと成長を意味するgrowthを組み合わせたものです。これは、ガラスの天井を壊しながら自らも成長していこうという思いが込められています。
ジェンダー格差を解消していくことで、多様な働き方や生き方が尊重されるようになれば、他のマイノリティーの人たちへの格差も是正されていきます。違いを強みにして、誰もが活躍できる社会が実現します。bgrassは、これまでなかなか進んでこなかった日本のジェンダーギャップに新しい風を吹かせています。