BIPROGYグループの総合イベント「BIPROGY FORUM 2025」が、6月5日・6日の2日間、ANAインターコンチネンタルホテル東京で開催されました。「すべてはこの星で生き続けるために」をテーマに、持続可能な未来を目指すさまざまな取り組みが紹介され、会場には約2,100人が来場。多彩なテーマで講演やセッションが行われました。

キャナルベンチャーズは、SolveX Capital Partners株式会社の丸田俊也さんを迎え、「スタートアップ共創で切り開く企業の未来」と題したパネルセッションを展開しました。企業とスタートアップの共創を促進するCVCの実情と可能性について、実践者の視点から語り合いました。

【パネラー】
SolveXCapital Partners株式会社 代表取締役CEO 丸田俊也さん
キャナルベンチャーズ株式会社 代表取締役CEO 松岡亮介

制度や機能が整備された今こそ共創のチャンス

松岡)今まさに、オープンイノベーションの推進やスタートアップとの連携にとって、絶好のタイミングが訪れていると感じています。岸田政権下で策定された「スタートアップ育成5か年計画」の効果により、スタートアップが次々と誕生し、活性化しています。さらに、東証グロース市場の上場維持基準が「上場から5年経過後に時価総額100億円以上」に変更されることで、M&Aを含めた投資マーケットが大きく動こうとしています。

こうした制度や環境の整備が進む中で、企業側がいかに最適な選択をしていくかが問われています。オープンイノベーションをどう進めるか、その実践知を共有すべく、今回はこの分野で実績を重ねてこられた丸田さんにご登壇いただきました。

丸田)私が代表を務めるSolveX Capital Partnersでは、現在3つの柱で事業を展開しています。1つ目は「ベンチャークライアントユニット活動支援」です。これは、事業部のニーズを丁寧に分析し、その課題解決にふさわしいスタートアップを紹介する“つなぎ役”を担う取り組みです。

2つ目が「CVCの運営・設立支援」です。運営上の課題や方向性に悩むCVCに対して、仮説検証や目的の再確認を行いながら、戦略や体制の再構築を支援しています。

3つ目は「GP(ジェネラル・パートナー)業務による二人組合組成」です。これは、企業と共にシナジー創出に特化した投資ファンドを立ち上げる取り組みで、より本質的な共創を生み出すことを目的としています。

画像: 制度や機能が整備された今こそ共創のチャンス

スタートアップの最新技術をどう取り込むかを支援

松岡)スタートアップと共創することの意義について、どうお考えでしょうか?

丸田)最近は、海外の投資家から資本勘定や投資活動の開示を求められるようになり、その対応としてCVCを立ち上げる企業が増えています。中には「上長からCVCを立ち上げるよう言われたが、何から始めればよいかわからない」といった相談も多く寄せられます。

特にここ1~2年は、生成AIの台頭など、技術環境が劇的に変化しています。何かを変えなければ、という意識はあっても、現場の事業部長さんは目の前の業務に追われていて、3年先、5年先を見据えてスタートアップと共創する余裕がなかなか持てないのが現状です。そこを補完する存在がCVCです。スタートアップは、いわば最前線で最新技術にリーチしている人たちです。その技術をどう本体事業に取り込むかを、CVCが橋渡し役として支援するわけです。

画像: スタートアップの最新技術をどう取り込むかを支援

松岡)本体事業を因数分解していくと、解決すべき課題がいくつも見えてきます。一つの課題を一点突破していくには、トライアンドエラーを繰り返しながら技術を磨き上げていくプロセスが必要です。そうしたアプローチを外部のスタートアップと一緒に進めるには、数ある企業の中から最適なパートナーを見極める力が求められます。それを本体の事業部だけで担うのは難しいので、その選定と推進を担うためにCVCが存在するという構図ですね。

丸田)CVCに関わる方でよく見られるのは、本体側の課題をわかっていなくて、「こういうスタートアップがあります」と単に紹介してしまうケースです。でも本来、最初に見るべきはスタートアップではなく、自社の本体事業なんです。本体事業をきちんと理解したうえで、それに合うスタートアップを選ぶべきです。

松岡)スタートアップ側の視点でも、事業部の担当者が自社の代表として話してくれる場合には、「どんな課題を解決したいのか」「どんなアセットや強みを活かして共創したいのか」を、自分の言葉で語ってくれることが重要です。それができないと、共創はなかなか進みません。

丸田)事業部の方とスタートアップの方が直接話すと、言語や関心のギャップから、うまく噛み合わないことも多いんです。だからこそ、その間を取り持ち、共通言語をつくる“つなぎ役”が必要なんです。

「シナジー4分類」自社の得意領域の見極めが大切

松岡)丸田さんの取り組みで面白いのは、現場の課題にしっかりと目を向けながらも、企業が保有するアセットやケイパビリティの中から「何を活かせば何が伸びるのか」を見極め、うまく組み合わせて成果を出してきた点だと思います。

画像1: 「シナジー4分類」自社の得意領域の見極めが大切

丸田)ありがとうございます。私自身、多くのCVC関係者からご相談を受けてきましたが、実は微妙にその悩みの中身が少しずつ違うことに違和感を覚えていました。その違和感を整理するために、CVCの活動を4つの型に分類して考える「シナジー4分類」というフレームワークをつくりました。

1つ目は「メーカー技術調達型」です。自社にない技術をスタートアップから調達するモデルで、いわゆる狭義のベンチャークライアント型。製造業のR&D部門などがこれにあたります。

2つ目は「代理店販売型」です。スタートアップが持つ新商品・新サービスを、自社の販売網を活かして展開するパターン。商社やSIer系CVCによく見られる形です。

3つ目は「サービス自社導入型」です。スタートアップのサービスを自社の業務やサービスに取り入れることで、DXや業務改善を推進します。オペレーショナル企業など、あらゆる業種で適用可能です。

そして4つ目が「新規顧客アプローチ型」です。自社のコア事業の外にある新しい市場や顧客層に対して、スタートアップと協業して新たな事業を展開するモデルです。最終的にはここを目指す企業が多く、M&Aなどに発展するケースもあります。

1~3までの型があり、4につなげていくという分類ができます。このように整理すると、各社が「今どの段階にいるのか」「どの型に強みがあるのか」を可視化でき、悩みや目標を共有しやすくなると感じています。

画像2: 「シナジー4分類」自社の得意領域の見極めが大切

松岡)BIPROGYグループでもCVCを通じて、この4分類すべてのアプローチを実践してきました。特に強みがあるのは、2つ目の「代理店販売型」です。自社の営業や提供力を活かして、スタートアップの価値を広げる仕組みが社内に整っています。

シナジーの型ごとに適切なアプローチを設計する

丸田)例えば「メーカー技術調達型」は、研究開発目的の投資が多いため、最小単位で短期的に成果を試す傾向があります。一方で「代理店販売型」の場合は、競合他社も多いため、他社より先にスタートアップの価値に気づき、提携を結ぶスピードが重要になります。

このように、4つの分類にはそれぞれ明確な特徴があり、当然ながら取るべきアプローチも異なります。すべてを「CVCによる投資」というひとくくりで考えるのではなく、それぞれの型に応じて、どのように進めるのが適切かを丁寧に検討していく必要があります。

松岡)この4分類は、すぐに誰もが使いこなせるものではないかもしれませんが、非常に実用性の高いフレームワークだと感じています。事業会社の目線から見れば、スタートアップとの共創を考える際の入り口としても、わかりやすい構造です。

また、CVCの立場で見ると、ディープテック領域の技術は「メーカー技術調達型」に当てはまりそうに見えて、実は違うストーリーを描いていることもあります。スタートアップに注目する目的が、その技術自体の開発や獲得ではなく、その技術によって生まれる新しい価値にある場合です。

例えば、ヘルスケア分野において新たに得られる医療データを、複数の企業と共有することで、従業員の健康やウェルビーイング向上につなげるような事業を仮説として描いているケースが挙げられます。このような場合、まずは既存の企業ネットワークを活用して「代理店販売型」で展開し、その後「新規顧客アプローチ型」へと発展させ、新会社の設立につなげていくという段階的なアプローチが想定されます。

丸田)CVCが特定の分野に特化することは、外部から見てわかりやすくなるというメリットもあります。ただ、最終的にどこを目指すのかを踏まえると、必ずしも一つの型にこだわる必要はなく、状況に応じて柔軟にアプローチを変えていくことが大切です。一つひとつの案件ごとに、最適な方法を設計するという考え方を整理するといいと思います。

松岡)われわれもよく「スタートアップのロングリストをください」と言われることがありますが、そこからでは前に進まないという話をしています。重要なのは、まず事業会社として「自分たちは何を実現したいのか」という仮説を持つことです。

その仮説をどう立てるか、さらにその先にどんな展開を目指すのかを考えたうえで、初めてロングリストが意味を持ってきます。そして、「まずはメーカー技術調達型から始めよう」「次は代理店販売型に展開できるかもしれない」といったように、4分類のフレームを活用して段階的に戦略を描いていくことで、共創のストーリーがより具体的に見えてくるはずです。このフレームワークを、ぜひ多くの方々に活用していただければと思います。

This article is a sponsored article by
''.