IT人材不足の解消に向けて高セキュリティサービスを提供する株式会社ユニファ・テックは、残業や夜勤、休日出勤が多いとされるIT技術者のワーク・ライフ・バランスを実現するため、情報漏えい対策を施した小型の「セキュアブース」を開発しました。代表取締役CEO兼CTOの神﨑康治さんに、起業に至るまでの経緯を伺いました。

エンジニアとして活躍後、社内で新規事業を立ち上げ独立

小学生のころからパソコンに親しんできた神﨑さんは、大学でも情報系の学部に進学し、セキュリティ、ネットワーク、IoTなど、現在の事業につながる幅広い要素技術を学びました。就職活動では「IT×新規事業」という領域に絞り込み、2011年に新卒で大手IT企業へ入社し、インフラエンジニア(セキュリティ担当)としてキャリアをスタートします。金融機関の基幹システムを担当していたため、深夜に急なトラブルで呼び出されて対応することも何度もありました。

そのころ、経済産業省の起業家育成プログラム「始動 Next Innovator」に参加し、多くの起業家の姿を目にしたことで、本格的に起業を意識し始めます。加えて、2016年に子どもが誕生したことも大きな転機となりました。家族を持ったことで「たとえ自分に何かあっても、ITを活用すれば家族をずっと支えられる仕組みをつくれるのではないか」と考えるようになり、起業への思いがさらに強まっていきました。

当時、IT技術者は長時間労働や夜勤・休日出勤が当たり前とされており、厳しい労働環境で体調を崩したり家庭が崩壊する同僚の姿も目にしてきました。こうした自己犠牲の上で成り立つシステム運用の現状を打破したいという思いから、神﨑さんはエンジニアから企画職に転じ、社内新規事業提案制度を立ち上げ、自身の提案で新規事業を始動させました。

コロナ禍でも出社し続けていたITシステム運用者

2020年春、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、第1回の緊急事態宣言が発令されました。神﨑さんの周囲の技術者たちも在宅勤務を余儀なくされる中、自社のアセットを活用すれば社会に貢献できるのではないか、コロナに立ち向かえるのではないかと考える仲間が徐々に集まってきました。

企業の枠を超えてミーティングを重ねるうちに、複数の新規事業案が生まれます。その一つが、在宅でも安全かつ安心して作業できる高セキュリティ環境の開発でした。

当時、システム運用者は緊急事態宣言下でも出社を続けざるを得ませんでした。社内システムは極めて厳しいセキュリティが求められるため、外部からのリモートアクセスが制限されていたのです。リモート接続では不正アクセスや情報漏えいのリスクが高く、物理的に社内にいなければ作業できない状況が続いていました。

自宅に設置できる世界初のセキュアブース

当初は、自動車にセキュリティ機能を組み込み、自宅に配車してリモートワークを行うというスタイルを想定していました。しかし実証実験を進める中で、コスト面の課題が大きいことが判明します。そこで神﨑さんたちは発想を転換し、より現実的で持続可能な方法を模索しました。その結果、現在のような自宅にも設置できる小型ブースという形にたどり着きます。

オフィス向けのワークブースは既に存在していましたが、自宅に設置できるオフィス向け品質のワークブースはこれまで前例がありませんでした。テレワークを前提としながら高いセキュリティを備えたブースという発想は、世界でも初めての取り組みでした。

完成したブースは、防音性に加えて情報セキュリティを徹底的に確保している点が大きな特徴です。楽器演奏用の防音室や同時通訳者が使うブースなどを参考に、軽量で簡単に組み立てられ、しかも高い防音性能と手頃な価格を両立させました。こうして、システム運用者が自宅でも安全に作業できる環境を実現したのです。

事業開発のきっかけはコロナ禍でしたが、神﨑さんの目指していたのは一過性の対策ではありませんでした。「コロナが収束しても社会に定着するものをつくりたい」という信念のもと、自身の経験を踏まえて、セキュアなテレワークが新しい働き方として広がる未来を描いていました。その思いを形にすべく、会社から事業を譲り受けて2023年6月にユニファ・テックを設立。“家族もシステムも守る”という理念を掲げ、新たな挑戦をスタートさせました。

(後編につづく)