AIの登場によって人びとの生活は大きく変化しました。しかし、本人認証の仕組みはいまだに身分証明書に依存するなどアナログなままで、セキュリティ上のリスクが残されています。こうした課題を解決するため、株式会社Quwakは手に埋め込んだマイクロチップで本人認証を実現するサービス「I'm HUMAN」を展開しています。代表取締役CEOの合田瞳さんに、事業の詳細と今後の展望を聞きました。

生体埋め込み型NFCチップが社会インフラに

合田さんは「本人認証されるべきものは、本人の肉体の中にあるべき」という強い信念を持ってきました。その思いから、社会インフラとして提供できるよう、「ハードウェアと身体をフュージョンさせる方法を選択した」と言います。

「I'm HUMAN」は、自分であることを証明する生体埋め込み型NFCチップを用いた本人認証サービスです。マイクロチップにはメディカルグレードの素材を採用しており、体に害はなく、埋め込み後も通常の生活が送れます。MRIの受診や温泉入浴、空港の搭乗ゲートの通過も問題なく行えます。

家や車の鍵、社員証、運転免許証、パスポート、クレジットカードなどを同社のプラットフォームに登録すれば、共通のインターフェース「I'm HUMAN」で認証が可能になります。例えば、決済端末に手をかざすと支払いができたり、家やオフィスのドアに手をかざすと鍵が開きます。今後はマイナンバーカードとの連携をはじめ、さまざまな分野での活用が期待されています。

費用面と施術への心身のハードルが課題

マイクロチップのセキュリティは高く、万一ハッキングされたとしてもIDを入れ替えることができます。また、ブロックチェーン的な思考で、IDを毎秒更新し、外部からのアクセスがほぼ不可能な方法で生成しているため、複製は極めて困難とされています。

現在普及している指紋や顔、静脈、虹彩といった生体認証は、一度情報が漏洩すると肉体そのものを変えることはできず、再発行ができないという致命的な弱点を抱えています。これに対し、マイクロチップによる認証は、既存の生体認証とは異なるレイヤーにあり、情報の再発行や更新が可能であるため、仕組みとしての柔軟性と持続的な安全性を兼ね備えています。

このように万能に見えるマイクロチップですが、体に埋め込んだマイクロチップによる本人認証が広まるには、いくつか検討すべき課題があります。第一に費用の問題です。マイクロチップは医療機器ではないため、保険適用外です。将来的に保険適用になる可能性はありますが、現状は全額自己負担となります。

第二に施術への心理的抵抗です。埋め込む際の痛みには個人差があり、採血やワクチン接種、ピアスを開ける程度の負担だとしても、手術をすることや体に異物を埋め込むことへの抵抗感を示す人も少なくありません。そこで、これらの課題へは、インフルエンサーなど社会的に影響力のある人に体験してもらうことで、社会的認知を広げていきます。

さらに、マイクロチップを埋め込むユーザーや、認証手段として導入する企業を増やし、社会的合意を形成することも不可欠です。そのために政府への働きかけも本格的に進めていく方針です。

「マイクロチップがないと生活できない」世界を実現したい

Quwakは、体に埋め込んだマイクロチップを唯一無二の認証手段と位置付け、肉体というフィジカルな存在とインターネット上のデジタルアイデンティティを結びつける認証プラットフォームを構築しています。従来のパスワードやカードを必要とせず、身体そのものが本人証明となる仕組みです。

合田さんは、国内だけでなく海外展開も視野に入れています。技術力の強化や優秀な人材の確保に取り組みながら、グローバル市場で勝ち抜くための戦略を着実に構築しています。その根底には、世界をフラットに捉える視点があります。発展途上国でも先進国でも同じように利用できる仕組みを提供し、場所や環境に左右されない認証インフラを構築しようとしているのです。目指すのは、世界中どこにいても身体ひとつで認証が可能になる社会です。

そして最終的には、人々が「マイクロチップがないと生活できない」と自然に感じるほどに、日常生活に浸透した世界の実現です。16歳のときにひらめいたアイデアは、夢想から出発しながらも、いまや世界共通の認証システムとして形を帯びつつあります。合田さんの目には、その未来像が鮮明に映っています。