本人確認書類は紛失や盗難、不正利用のリスクがあり、生体認証も偽装や情報漏洩の可能性を完全には排除できません。株式会社Quwakは、体内にマイクロチップを埋め込み、あらゆるサービスの認証を一元化する事業を展開しています。代表取締役CEOの合田瞳さんは、「自分を証明する最も重要なものが常にリスクと隣り合わせであること」に疑問を抱き、起業に踏み切りました。

「トビタテ留学JAPAN!」でビジネスアイデアを提出

合田さんは新居浜工業高等専門学校1年生のとき、文部科学省の留学促進キャンペーン「トビタテ留学JAPAN!」の説明会に参加しました。審査にはビジネスアイデアの提出が求められ、その際に着想したのがマイクロチップによる認証プラットフォームでした。そして、このアイデアが評価され、見事に審査を通過しました。

実はそのひらめきの背景には、幼い頃から抱えてきた切実な思いがありました。喉に持病を抱え、転院のたびに病状を一から説明し直さなければなりませんでした。そのたびに「どうして自分の命に関わる情報を、自分の手で守れないのだろう」と強い違和感を覚えていたのです。

こうした問題意識から、当時注目を集めていたブロックチェーン技術とカルテ情報の相性の良さに気づきます。さらに人体用マイクロチップを認証手段に活用できる可能性を思いつきました。日常における身近な不便さが、やがて大きなビジネスアイデアへとつながっていったのです。

飲食店向けシステムが評判になり、ソフト会社を起業

2019年、高専2年生のときにAI企業でインターンを経験しました。その際、インターン先の社長が手に埋め込んだマイクロチップでドアを解錠する姿を目の当たりにし、マイクロチップの可能性をさらに強く実感しました。これをきっかけに、起業への思いはいっそう高まっていきました。

その後、新型コロナウイルスの流行により学校が休校やオンライン授業となり、自由な時間が増えたことで、本格的にプログラミング学習に取り組み始めます。ちょうどその頃、飲食店でアルバイトをしており、オペレーションには人が担わなくてもよい作業が多いことに気づきました。そこで、アルバイト先で実際に使える省力化システムを作り上げ、さらに予約から決済までを一括で管理できるプラットフォームも組み込み、利便性を高めました。

このシステムは評判になり、アルバイト先以外のお店にも導入されました。そこで、合田さんが自ら営業の電話をかけ続けるうちに、大手外食チェーンの目に留まります。「うちは1500店舗ありますが大丈夫ですか?」と言われて、初めて相手が大企業であることを知ったそうです。取引のためには法人格が必要となったため、ソフトウェア開発を手がける会社を設立しました。

マイクロチップのビジネスアイデアを実現へ

当時、競合となる飲食店向けシステムは少なく、会社の業績は順調に伸びていました。しかし、合田さんは常に「マイクロチップのビジネスを実現したい」という思いを抱き続けていました。2020年、18歳になった時に自身の手にマイクロチップを埋め込み、そして2023年6月には株式会社Quwakを設立しています。

現在の本人確認システムには大きな脆弱性があると、合田さんは指摘します。身分証明書や運転免許証、パスポートといった所持情報による本人確認はセキュリティが甘く、静脈や指紋、顔認証などの生体情報ももはや安全ではありません。例えば、指紋はスマートフォンで撮影した画像からAIによって生成される可能性があり、オンラインでの決済さえAIは実行できてしまう時代です。多要素認証であっても、なりすましのリスクは高いまま残っています。

AIと人間が共存する社会が進む中で、今後は「人間であること」そのものを証明する仕組みが不可欠になると考えています。そこで合田さんは「自分が存在していることそのもので証明できるように、身体の中にアイデンティティを埋め込もうと思った」と振り返ります。まさに「ジブンだけでジブンを証明できる世界」を実現するための挑戦でした。

合田さんは長年温めてきたアイデアをついに具現化し、念願のマイクロチップを活用したビジネスをスタートさせました。生体埋め込み型のNFCチップを用い、自分自身で本人確認ができる認証サービス「I'm HUMAN」を開発したのです。

(後編へ続く)