日本から世界をリードしたいという強い気持ちで「誤り耐性型量子コンピューター」の実現に挑むスタートアップのQubitcore株式会社。2030年の商用稼働開始を目指して挑戦を続ける代表取締役CEO綿貫竜太さんに、同社の技術的な強みやビジネスモデル、将来の展望を伺いました。

「1つの箱にたくさん入らない」課題を、複数の箱を連結することで解決

量子コンピューター分野では、2023年12月に米QuEra社とハーバード大学、MIT、NISTが共同で、誤り耐性を備えた量子計算において48論理量子ビットの実現に成功しました。これを契機に、世界中で誤り耐性型汎用量子コンピューター(FTQC)の開発が加速しています。

FTQCとは、量子ビットに生じる誤りを自動的に検出・修正しながら正確かつ安定した量子計算を実行できる量子コンピューターを指します。汎用的な量子コンピューターでは誤り訂正が不可欠とされており、1つの論理量子ビットに対して数千〜数万の物理量子ビットが必要です。そのため、現在商用化されている量子コンピューターには誤り訂正が実装されておらず、実用機の登場は2030年代以降と予測されています。

FTQCの実現には、「量子ビットの正確・安定した動作と拡張性」「誤り訂正技術」「ユースケースごとのアルゴリズム開発」という3つの課題を順に解決していく必要があります。

Qubitcore(キュービットコア)が強みを持つのは、量子コンピューターの基盤技術においてです。イオントラップ方式では、イオンの物理的な集積に限界があるため大規模化が難しいとされてきました。超伝導方式などと比較して、イオン同士の配置が近すぎても遠すぎても制御上の問題が生じるためです。

そこで、OIST高橋准教授が開発した「複数のイオントラップを光で連結する」設計を採用しました。これにより、量子コンピューターの頭脳にあたる量子処理装置(QPU)を連携させて処理を行う分散量子コンピューティング(DQC)を実現し、従来の課題を解決して大規模な並列計算を可能にしました。

Qubitcoreが描く3つのビジネスモデル

量子コンピューターは、特定分野において従来のコンピューターを遥かに凌ぐ計算能力を持つ一方で、従来のパソコンのように小型化することは困難です。そのため、データセンター規模の設備が必要となり、企業が単独で導入・運用するのは容易ではありません。そこでQubitcoreは、量子コンピューターの機能を企業に提供する方法として3つのビジネスモデルを構想しています。

第1のモデル:QCaaS(Quantum Computer as a Service)

クラウド経由で量子コンピューターの計算機能を提供するモデルです。顧客は職場のパソコンからPythonなどのプログラミング言語を使って量子コンピューターにアクセスし、高度な量子計算を利用できます。

第2のモデル:プロジェクトベースの共同開発

企業や研究機関との共同開発プロジェクトです。Qubitcoreが量子コンピューティングの専門知識と専用リソースを提供し、顧客の課題に応じてカスタマイズしたソリューションを共同で構築します。

第3のモデル:オンプレミス型提供

顧客の拠点に量子コンピューターを直接設置するモデルです。セキュリティやデータ管理の観点から、自社内で量子計算環境を構築したいというニーズに応えるもので、機密性の高い研究開発に活用されることが想定されます。

量子時代を切り拓くQubitcoreの挑戦

Qubitcoreが掲げるミッションは、「誤り耐性型汎用量子コンピューター(FTQC)の実現を通じて、次世代の産業革命を牽引し、量子時代の経済、産業、安全保障の飛躍的発展を力強く支える存在となる」ことです。

現在、量子コンピューターはまだ開発途上で用途も限定的ですが、私たちの生活やビジネスに広く浸透する未来は確実に近づいています。綿貫さんは、「絶対に世の中が変わって面白いことが起こりますから、待っててください」と語り、今後数年で量子コンピューターが進化し、社会に大きな変革をもたらすと確信しています。

Qubitcoreは、量子コンピューターの実用化に向けて明確なロードマップを描いています。その中でも重要な目標の一つが、2028年に誤り訂正の基礎機能を搭載した量子コンピューターを稼働させることです。さらに、内閣府のムーンショットが掲げる目標よりも20年早い2030年までに商用稼働の実現を目指しています。

綿貫さんは、かつて日本が半導体分野で世界をリードしながらも競争力を失っていった歴史を振り返り、「世界を変えることにチャレンジできるチャンスはそう多くない。量子コンピューター分野では日本から世界を変えていきたい」と力強く語ってくれました。