旅行の目的地や日程、人数、やりたいことを入力するだけで、AIが最適な旅程を提案してくれるアプリ「AVA Travel」。観光スポット、ホテル、グルメ、交通手段などの情報がこのアプリ一つに集約されているため、複数のサイトを検索する手間が省けます。このサービスを開発・提供しているAVA Intelligence株式会社の代表取締役である宮崎祐一さんに、起業の経緯やアプリ開発に至った背景について伺いました。
学生時代に培われたリーダーシップと構想力
幼いころから「将来は総理大臣か社長になりたい」と語っていた宮崎さんは、学級委員長を務めるなど、早くからリーダーシップを発揮してきました。進学校に通っていた高校時代には、受験一色の雰囲気の中で「このまま何もせずに卒業するのはもったいない」と感じ、文化祭での出し物をクラスに提案します。準備を進めるうちにクラスの雰囲気が変わり、当日は見事な成功を収めました。この経験が、起業を志すきっかけになったといいます。
大学では経営工学を専攻し、2010年当時まだ日本では普及していなかったキャッシュレスの可能性に着目しました。海外旅行で初めてデビットカードを使った際、支払いと同時に口座から引き落とされる仕組みに利便性を感じ、将来的にはカードすら必要なくなるのではないかと考えるようになります。
日本でキャッシュレスを広めたいという思いから楽天銀行のインターンを志望しましたが、募集がなかったため、代わりに楽天グループのインターンに参加しました。楽天市場の流通を促進するプロジェクトに携わり、ビジネスの面白さを実感しました。そのまま新卒で楽天に入社し、インターネット広告を管理する部門で、オンラインマーケットの運営や営業支援に取り組みました。
「検索の仕組みを変えていきたい」という決意で起業
その後、ホテル向けダイナミックプライシング事業を展開する株式会社空(現:ハルモニア)に転職し、企画からプログラミングまで幅広く担当しました。この経験を通じて、「AVA Travel」の構想が生まれました。きっかけは、旅行業界に限らず、「検索の仕組みを変えたい」という強い思いにありました。
Web検索によって情報は手に入りやすくなりましたが、選択肢が多すぎて、かえって何を選べばよいのかわかりにくくなるといったジレンマを感じていました。例えば旅行を計画する際、ホテルは予約サイト、航空券は比較サイト、観光スポットはWebメディアやSNS、ガイドブックなど、それぞれ別の媒体を使って調べる必要があります。さらにレストランやお土産情報も別途検索しなければならず、情報が分散していることで、どれが自分にとって最適か判断しにくくなっています。
そうした旅行計画の煩わしさを解消することを目指して開発されたのが、旅行プラン作成アプリ「AVA Travel」です。ユーザーは出発地と目的地、日付、交通手段、人数(大人・子ども)に加え、「自然を堪能したい」「カップルで行きたい」「歴史的観光スポットを訪れたい」などの希望を自由入力するだけで、好みに合わせた旅行プランの提案を受けることができます。
コロナ禍で国内旅行にシフト、2Gビジネスも展開
2018年10月に法人登記を行い、2019年の春から夏にかけてエクイティファイナンスを実施しました。そして同年8月には、旅行プラン作成アプリ「AVA Travel」のプロトタイプが完成しました。当初は海外旅行向けのサービスで、性格分析に基づいて最適な旅行先を提案する内容でした。
その後、新型コロナウイルスの世界的な流行を受け、海外旅行よりも国内旅行の回復が早いと判断し、2020年3月に国内旅行向けのサービスへとピボットしました。「Go To トラベル」キャンペーンをビジネスチャンスと捉え、自治体と連携した行政向け(to G)サービスにも事業を広げていきました。
観光客の増加に取り組もうとしている自治体に、どの観光地にどのような人が訪れているのかをデータ分析し、それらをWebやスマホ上でAIがユーザーにレコメンドする観光DXの仕組みを提案していきました。コロナ禍をきっかけにto Cからto Gに事業の拡大を図っています。
ChatGPTを活用した事業展開へ
2022年に生成AIのChatGPTが登場し、宮崎さんはこれを大きなチャンスと捉えました。リリースからわずか2週間後には、LINE上でAIが旅行の相談に応じる「AIコンシェルジュ」サービスも立ち上げています。
それまで自社でAIの開発を手がけてきた経験をもとに、宮崎さんはChatGPTの登場を機に、事業の方向性を転換しました。蓄積してきた旅行関連のデータをいかにユーザーに届けるかという視点での活用にシフトする一方で、従来から開発してきたAIコンシェルジュの仕組みは、ユーザーの行動を検証する手段として大いに役立っています。
人々がどのようにAIを使って旅行を計画するのかを分析し、次の事業展開につなげていきたいと考えています。今後もChatGPTをはじめとする生成AIを活用しながら、さらなるサービスの拡充を図っていく予定です。
(後編につづく)