温浴施設の企画・設計・施工・運営を一括で手がける株式会社yueは、銭湯の魅力を活かしながら、サウナ施設へとリニューアルすることで収益性を高め、事業継承を実現しています。代表取締役の大澤秀征さんと、共同代表の三浦燿さんは、それぞれ建築と大工職人のバックグラウンドを持ち、銭湯のリノベーションを円滑に進められる体制を築いてきました。銭湯をリノベーションした「しずの湯」の取り組みと、今後の展開についてお話を伺いました。

専門知識を活かした銭湯リノベーションの強み

サウナ、水風呂、休憩という体験は、必要な設備が整えばどの施設でも提供することができます。そのため、サウナそのものの差別化は難しいと大澤さんは考えています。だからこそ、オーナーの想いや施設独自の強みを見極め、それをどう空間設計に反映させるかが重要になります。さらに、それに合わせた料金体系や集客の仕組みを組み立てていきます。

こうした考え方は、現在の銭湯をサウナとしてリニューアルさせるケースでも同じです。限られたスペースを有効活用し、どのように配管を設置するか、どうすればコストを抑えながら利用者に満足してもらえるかを考えて、設計とデザインを進めていきます。

銭湯は長年にわたって増改築を重ねてきたケースが多く、配管が複雑に入り組んでいることも少なくありません。さらに、アスベストが使用されていることもあり、解体時には飛散防止のための対策が必須になります。建築と大工職人のバックグラウンドがある二人には専門知識があり、一般的に難しいといわれる銭湯のリノベーションも円滑に進めることが可能になっているのです。

サウナは人々の日常を変える施設

神奈川県座間市にある老舗銭湯「亀の湯」をリノベーションして誕生した「しずの湯」は、2025年2月24日にオープンしました。大澤さんはこの施設を、今後展開する「しずの湯」ブランドの1号店であり、フラグシップ店と位置づけています。「しずの湯で提供したいのは、日常を変える体験です。家庭のお風呂では取りきれない疲労を回復し、ストレスを和らげる場所として、毎日通いたくなる施設を目指しています」と、大澤さんは語ります。

リノベーションにあたっては、地域の歴史やコミュニティを尊重し、もともとの銭湯という文化や構造を大切にしています。浴槽の配置や高い天井といった銭湯ならではの要素は、安心感や絶妙な距離感、そして家庭では得られない開放感をもたらします。大澤さんは、これらの魅力をどう活かし、どう残すかを常に意識しているといいます。

特徴的なのは、銭湯をきれいに改修して継承するのではなく、銭湯の魅力を活かしつつサウナへとリニューアルし、収益性のある事業として再生している点です。銭湯では採算が難しい立地でも、サウナとして再生することで商圏が広がり、継続可能性が高まります。この方針は、長年銭湯を営んできたオーナーからも支持を集めており、競合他社に対する優位性にもつながっています。さらに、日本の銭湯文化と木の魅力を伝えるため、木材流通スタートアップ株式会社森未来と連携し、国産木材を積極的に使用している点も注目されています。

しずの湯を日本中、そして世界中に展開へ

もともと亀の湯に通っていた人たちにも、引き続きしずの湯を利用してもらいたいという思いがあります。目指しているのは、低価格で毎日立ち寄れる「家の外のお風呂」をつくることです。温浴施設でしっかり汗を流すことで、すっきりとした状態が長く続き、心身のコンディションが整うと考えています。しずの湯を通じて、日々のパフォーマンス向上にもつなげたいというのが今後の展望です。

同社が掲げるビジョン「CREATE WELLNESS FOR EVERYONE」には、日常の疲れを癒すだけでなく、その先にある健やかで豊かな暮らし(=ウェルネス)を実現したいという思いが込められています。社名「yue」は、お湯の文化を描いていきたいという「湯絵」と、温故知新の精神を表す「故」に由来しています。大澤さんと三浦さんは、しずの湯を日本全国、そして世界へと広げ、人々の暮らしに寄り添う存在として根付かせていくことを目指しています。