銭湯は、日本の入浴文化を継承し、地域コミュニティの場としても重要な役割を果たしてきました。しかし、全国的にその数は減少し続けています。こうした中、株式会社yueは温浴施設の企画・設計・施工・運営を一括で支援し、銭湯再生に取り組んでいます。代表取締役の大澤秀征さんと、共同代表の三浦燿さんに、起業の経緯と事業の背景について伺いました。

「サウナカー」で全国を巡り、個人事業主に

建築士の父の影響で、幼いころから同じ道を志していた大澤さんは、大学でも工学部に進み建築を専攻しました。しかし、実践を通して学ぶ中で「自分は建築士に向いていないのでは」と感じるようになります。では、建築士以外に自分は何をやりたいのか、自問自答の末にたどり着いた答えが「起業」でした。

当時最も熱中していたのがサウナだったことから、サウナをビジネスにすることを思いつきます。建築の知識を活かしながらも、建築士とは異なるアプローチで建築の世界に関わる道も模索していました。

自分でサウナ施設を開業することも検討しましたが、資金や場所の確保が難しかったため、そこで思いついたのが「サウナカー」でした。軽トラックを購入し、大澤さん自身で設計・施工したサウナ小屋を荷台に載せた移動型のサウナを製作しました。イベント会場やキャンプ場を巡ってサービスを提供するスタイルで、2020年に大学在学中のまま個人事業主として開業しました。ちょうど世の中にサウナブームの兆しが見え始めたタイミングでした。

「お⾵呂とサウナPARADISE」の立ち上げ

サウナカーで全国を巡るなか、大澤さんは各地で地元のサウナを体験し、業界についての知見を深めていきました。そうした活動を通じて注目を集めるようになり、ある日、サウナ施設のコンサルティングの依頼が舞い込みます。

それは、東京都港区で90年続いた老舗銭湯を、男性専用のサウナ施設としてリニューアルするプロジェクトでした。大澤さんはこの機会に大学を休学し、建築とサウナの両方の知識を活かして、運営責任者としてリノベーションに携わります。

こうして2022年4月29日にオープンした「お⾵呂とサウナ PARADISE」は、内装に国産木材を採用し、共用サウナと個室サウナの両方を備えた施設へと生まれ変わりました。銭湯ならではの趣を残しつつ、現代的なデザインや機能性を取り入れた新感覚のサウナとして注目を集め、瞬く間に人気スポットとなりました。

二人のバックグラウンドを活かし銭湯のリノベーションへ

一方その頃、三浦さんは北海道で大工職人として独立し、個人事業主として仕事をしていました。大工の仕事と並行して、飲食店の経営にも取り組んでいたといいます。将来を考える中で、「もっとしっかり学び直し、きちんとビジネスに向き合いたい」という思いが芽生え、大学の法学部に入学しました。

卒業後は日本の大手通信・IT企業に就職し、在職中に人事の紹介で大澤さんと出会います。三浦さんは、自身の飲食店経営の経験から、大澤さんの「サウナをつくりたい」という想いに強く共感しました。さらに、出身高校が同じで実家も近所だったことがわかりました。意気投合した二人は、その後も定期的に会ってはビジネスの話をするようになりました。

「サウナのコンサルティングを続けるより、自分の施設をつくりたい」という気持ちは、大澤さんの中で次第に強くなっていきました。三浦さんもまた、「サウナ施設の一括支援というビジネスモデルは世界でも通用する。自分たちの施設で世界中を埋め尽くすくらいの勢いでやりたい」と考えるようになっていきます。

銭湯業界が抱える経営難や継承者不在といった課題を解決したいという思いから、二人は銭湯のロールアップ(複数施設の統合)とリノベーション事業に本格的に取り組むことを決意し、2023年8月に株式会社yueを共同で創業しました。

建築を学び、全国のサウナ事情に精通する大澤さんと、大工職人としての現場経験に加え、経営の視点も併せ持つ三浦さんは、それぞれの専門性を尊重し合いながら、多角的な視点で銭湯のリノベーションに取り組んでいます。そして、2024年5月には、資金調達の目処が立ち、居抜き物件も見つかりました。

(後編につづく)